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二十代魔法少女☆あんこ! 急

「理由さえ話せばいいのよ」と彼女は菩薩のごとき笑顔でのたまったが、当然ながら目は猫のままだ。もしかしてこれは比喩じゃなくて魔法で実際に猫の目にしているのか? 僕にはちょっとわからない。問題はもちろんそこじゃなくて、彼女に僕を捻り潰す気があるのと、実際に捻り潰す力があることだ。ここに来て僕は観念し、全てを話した。曰く、 「まず初めから話すと二年前に達之が姉ちゃんにプロポーズしてその時はもちろん大学生だから社会人になってからって話になってそれで俺はもちろん反対したんだけど姉ちゃん本人が結構その気だったのねそれで俺もしょうがないかって思ってたら今になってオヤジが急に反対しだして説得してくれって二人から言われたのよそれじゃあってことで近いうちに話し合おうって決めたのが一昨日ねそんで昨日は本当に仕事だったんだけど仕事終わりで電話来てなんか今日話すとか抜かしやがってアンにはこの件で姉ちゃんや俺がすげぇ頼りっぱなしだったから次に会うときにはいい報告したいのだからまだ言わないでとか言われてもう仕方なくホントゴメン謝るから許して捻らないで潰さないでお願いします」
 一息に言ってしまうと、僕は酸欠でホワイトアウト気味の視界で庵子を見上げた。いったいどんな拷問や体罰が来るかと怯えていたら、彼女は拍子抜けしたような顔で僕を見下ろしている。
「なんだ」と呟いた。「そうだったの。あー、それでタツ君の部屋に道子さんと二郎おじさんとアンタが行ったのね」
 予備知識が必要な話になってしまうが、その部分はこの際すっ飛ばしていただこう。ここにおいてようやく誤解が解けたので本題に戻る。ようは、庵子が魔法を使えるようになったからどうなのだ、という所。変態が静かに言う。
「魔法の力は平和の力。先ほど私にかけたような魔法は悪党に使っていただきたいモノだね」
「じゃあ正しい使い道じゃない。とにかく、私もう眠いから今日は寝たいんだけど」
「それは駄目だ」
 どうしてよ、と庵子は頬を膨らませる。僕は庵子の机の上にあるガラムを一本取ると火をつけた。パチパチタバコの異名通り、竹の爆ぜるような音が何故か細い紙巻きから聞こえてくる。
「アンっていつからガラム吸ってんの」
「十六。ねえ、なんで駄目なのよ」
 さらりと酷いカミングアウトだな。
「この魔法は万能だが一つだけ欠点がある。月が出てないと使えないのだ。よって昼間は魔法は使えない。夜の間だけ。満月に近いほど威力は強くなり、新月の時には当然使えない」
 理屈のよくわからない制限だな。僕は何故か粉々に砕けた窓から煙を吐き出す。うん、これは甘くてまずい。買うのはよしておこう。変態の話から察するに、庵子は月の夜に困っている人々を助ける正義のマジカルヒロインということになる。
「それと、今日中に決めてしまいたいこともあるのでね」
「何よ」
「君の肩書きと名前だ」
「は?」
「私は日本に来たのは、日本の女性が魔法と親和性が高いからだ。彼女たちは不思議なことに思春期の少女で、魔法使いだとか魔法少女だとか肩書きが付いている。名前もカタカナやひらがなで普通でない。もちろん偽名だろう。ということは、だ。日本の女性の魔法使いは肩書きと偽名が必要な訳だ。だから考えなければなるまいよ。とりあえず肩書きは魔法少女として」
 僕らはどん引きした。この変態はちょっとリアルに変態だった。それとも日本の負の文化をよく知らないで大まじめに行っているのか、とりあえず二十代を捕まえて魔法少女は酷い。魔法女性、魔法淑女。確かに少女以外の単語は当てはまりそうもないが、それにしたって少女はない。と言うようなことを伝えたら、変態サン・ジェルマンは、
「それならば魔法で少女に変身したまえ」
 とわけのわからないことを言い出した。
「日本の文化のことはずいぶん調べたが、そういうのには気づかなかった。私の手落ちだ。かといってテストケースを君から他の少女にかえるわけにもいかない。君たちの中で魔法使いというのが老婆を連想させるなら、また魔法少女がより幼い女の子を連想させるなら、どちらかに変身した方がわかりやすい。ということで変身したまえよ」
 なにが言いたいのかよくわからない。何百年も生きている男の言うことはおよそ僕たちの常識からかけ離れていたが、なんだか反論するのも面倒くさいので僕は彼女に促す。
「まぁ、とにかく変身してみなよ」
 というわけで変身だ。
「あfじぇあ;gじ;れお!」
「あ、ちなみに変身後の体は使用者のかつて夢に見た理想の体型とコスチュームになるので注意したまえよ」
 こいつわざとだな。
 ……数秒後、目の前に現れた彼女の容姿を事細かに描写するのは彼女の名誉にも僕の命にも関わる。ので妥協して、平均的な小学生の少女達が朝のテレビを見て変身セットをほしがるようないわゆるあの服にいわゆるあの顔、とオブラートに包んだ言い方にしておく。決してどぎついピンクと白のフリルに飾られたレオタードもどきのハートマークがちりばめられたキラキラほわほわした材質のよくわからないピッタリスーツだとは言えないし、アルバムで一度だけ見た覚えのある彼女の十四歳頃の垢抜けないちょっとふっくらとしたような顔だとも言えない。絶対に言えない。
「……お、おお、魔法少女だ。テレビみたい」
「うぇおfじぇ;rんる!」
 次の一瞬で僕と変態は空を飛び、その時僕は窓が割れていた理由を理解したのだがそんなことはどうでもよろしい。どうやら庵子は自分の幼いことの嗜好が赤裸々に暴かれたのが恥ずかしくて僕らを吹っ飛ばしたのだろう。自分が穴に入るのではなく周りを消し去るのが彼女と言えば彼女らしい。
 僕と変態が帰る所をいちいち書いていてはとても枚数が足りないので省略する。庵子の部屋のドアを開けると、彼女はすでに元に戻って不機嫌な顔でガラムをすっぱすっぱフカしていた。
「か、かわいかったよ」
 睨まれたので口を閉ざす。
「却下却下却下。変身はナシ! 普通に助けに行けばいいじゃない!」
「しかしそれでは魔法少女ではないのだろ」
「いいのよさっき魔法使って少女の定義を拡大しておいたから。今なら四十歳まで少女よ」
 それは酷い。
「で、具体的にはどうやって困ってる人を助ければいいの? まずどうやって見付けるのよ」
「それより、俺そろそろ戻りたいんだけど」
 睨まれたので口を閉ざす。今頃あの三人はどうしているのだろうか。姉ちゃんはいい女だが空気を読まないから大変なことになっているような気がする。そもそも麻雀しようと言い出したのも彼女で、しかも強いものだからあの時点でオヤジはハコ寸前で機嫌が悪かった。そこで僕がいきなり消えたモノだから、その後の空気は予想だにできない。一刻も早く戻ってとりまとめないと、どんな惨事になっていることやら。でも庵子が怖いからしょうがないのだ。
「心の中で念じるのだ。困っている人どこですかー、というようなことを」
 安直だな。
 庵子は目を瞑って意識を集中させ始めた、と思う。寝たんじゃないかと言われると反論できないのが辛いところだ。幸いなことに十数秒後から「あ、あっ」とあえぎ声を上げ始めたので寝たのではないようである。しかしなぜあえぎ声。後で話してくれたのによると、急に頭の奥で声が響いて驚いたのだという。
「三百メートル先でおっさんが困ってる」
「どんな風に?」
「ヤンキーに囲まれて金取られてる」
 わかりやすい困り方だ。ちょっと行ってくる、と庵子は玄関から出て行って、砲丸投げの砲丸よろしく飛んでいくヤンキー三人を見た僕がタバコの火を消している間に戻ってきた。
「楽勝」
「そう」
 庵子のことだから、魔法なんか使わなくても楽勝のはずだけれど。これが鬼に金棒ってことだな、きっと。いつの間にか消えていた変態が突然現れて、
「しかし決めゼリフとポージングは魔法少女のお約束ではないのかね。ただ歩いていって放り投げるだけならそこらの大男にもできるぞ」
 いやあれだけの距離を飛ばせる人間は存在しないに決まってる。
「私はテストケースなんでしょ。だったらあんまり多くは望まないでよ」
「できるだけ私の意向に沿って欲しいモノだが仕方がない」
 体がまた浮かび始めたので、変態は説得を諦めたようだ。
 その後、庵子は部屋を出て行き鼻歌交じりで戻ってくるのを何度か繰り返した。途中で空を飛ぶことにしたようで、出入り口が玄関から窓に変わった。空が白み始める頃、彼女は最後の人助けから帰ってきて、割れた窓を完璧に元通りに修復してご満悦のようである。
「魔法って便利ね。これで肌荒れとかに悩まなくてもすみそう」
「一日で五組、七人の人間を助けた。これから慣れていって助ける人数が増えるとして、だいたい十人前後。一ヶ月で三百人、一年で四千人程度、困っている人を救うことができる」
「でも、毎日こんな時間まで起きてたら仕事に影響が出るわ」
「問題ない。時間を引き延ばしてその間に眠りたまえ」
 本当になんでも出来るんだな。願わくば時間を戻して、僕を家族と達之の元に行かせて欲しかったが、もう諦め気味だ。多分オヤジの心も魔法でなんとかなる。
 僕と庵子は変態を追いだして二人で眠り、その日の夕方に目覚めた。もしかすると全部夢なんじゃないかと二人で笑っていたら変態が現れて釘を刺した。
「言っておくが、魔法はくれぐれも平和のタメに使ってくれよ」
 というわけで僕らの平和を乱す変態を遙か彼方に転送して、この話は終わらざるを得ない。最後に一つだけ加えると、達之と姉貴の結婚はうやむやの内にまとまったらしい。
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