• 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

二十代魔法少女☆あんこ! 破

 庵子はビビっていた。何かの冗談だったはずが、脳裏にひらめいた言葉、吹っ飛んだ変態。それを可能にしたなにがしかの不思議な力。粉々に破壊された窓とその向こうの夜の街を指さしたまま、庵子は「あれ?」と呟いた。
「嘘……」
「嘘ではない」
 突然背後からの声。ギャッと悲鳴を上げた庵子は反射的にその主を手に入れたばかりの魔法の力で跡形もなく破裂させてしまった。ああ、グロい。これはそう言った話ではないから詳しく描写することは避ける。ぶっちゃけてしまえば、今は肉片となってしまった哀れな男は先ほど夜空に消えた紳士に相違ない。いったい何をどうやって戻ってきたのやら、まあ世紀の怪人サン・ジェルマンなら不思議ではないはずだ。
 扉がノックされたので恐る恐る開けると、当然のように破裂したはずの変態が立っていた。そろそろ僕にもわけがわからなくなってきたが、頑張るから耐えて欲しい。
 紳士は懐をごそごそあさって、葉巻が無くなったことに気づく。
「すまないが君のタバコをいただかせてもらうよ」
 もはやなんと表現すべきかわからない顔をした庵子の隣をするりと抜けて、机の上のガラムを手に取る。ガラムっておい。庵子の意外な趣味が見えた瞬間だ。僕の前じゃセーラムとか吸ってるクセに、結構マニアックだな。ちなみに庵子は二四歳なのでタバコを吸っていてもなんの問題もない。変態は一本に火を付けて、味を確かめるように一息吸った。
「そろそろわかってもらえたと思うがね。私は君に間違いなく魔法を授け、君は間違いなく魔法を授かった。私を攻撃したことについては追求しないでおこう。というわけで、だ。君はこれから魔法少女あんことなって人々に幸せを与えるのだ。空を飛び地を駆け――」
 それはもういい。しかし就職したての女を捕まえて少女と呼ぶのは誰がどうみてもおかしくないか。少女っていうのは最低条件がティーンであることだと僕は思うのだけど。それとも(自称)何百年も生きている不死のサン・ジェルマンから見ればどんな婆さんでも少女だというつもりか。
 庵子はまだ猜疑心の方が強いようで、今度はさっきと少し違う、けれどもやはりドリームな赤面モノの単語をいくつか呟いた。変態の吸っていたタバコの煙がショッキングピンクになったのを見て、ため息をつく。
「本当みたいだから相手したげるけど、いったい何なのこれ」
 やっと話が進む。僕にとっても変態にとってもありがたい。
「何度も言ってるじゃないか。私の秘技をもって構築された万能の力、魔法だ」
「科学のこの世で?」
「魔法と科学は、誤解されているが同じものだ。表現する言葉が違うだけでロジックは全く変わらない。例えば君がさっき私を飛ばしたのを科学的に表現するならば、君はある種のコードを用いて端末たる指を媒介することによって世界を支配する物理現象にアクセスし、地球の自転エネルギーを利用して私の周囲で膨大な回転運動を起こし重力を消滅させた。その回転によって引き起こされた風をぶつければ、私はどこまでも飛んでいくと、そういう原理だ」
「突っ込みたい点はいっぱいあるけど、まず指が媒介って時点で非科学的じゃない」
「何故だ? 人間は大規模な装置を使い似たような現象を引き起こすことができるじゃないか。しかも時間がたつごとにそれらはダウンサイジングされていく。どんどん小さくなり、それが指に埋め込まれるまでになってもおかしくはあるまい?」
 つまり、変態は庵子の指に何らかの装置が入っている、と言いたいわけだ。きっとそうだ。いつやったのかとか、そういうのは不思議なことに問題にならない。
「それが事実だとして、なら私の指は何かを吹っ飛ばすことしかできないんじゃない」
「そりゃ、お嬢さん、論理のダウンサイジングだよ。いいかね、以前はゲームをするにはゲーム機を。映像を見るためにはテレビを、音楽を見るにはミュージックプレイヤーを利用するしかなかった。今はそれが一つの携帯機器で可能になった。つまりどれも原理は似たようなものでひとまとめにできるのだ。科学者が盲信する数字と計算によってね。君がその指に得た力もそれだ。なんの疑問もない。しかも私は古来より研究を続け賢者の石を錬成し、この世の全ての英知を手に入れた。だから、簡単に言えばどこの誰よりも先をゆく人間なのだよ。私の作った装置の原理を説明することは簡単だが、きっと君には理解できまい。しかし君の得た力はれっきとした論理構築の上に成り立った素晴らしいものだ。なにより素晴らしいことは、なんでもできるという点につきる」
「なんでもって、本当になんでも?」
「なんでも。ただし悪用はくれぐれもやめてくれたまえよ。人間という悲しい生物は、力を得るとほぼ例外なく悪の道に進んでしまう。それは私の本意ではない。君の役目は人々に幸せを分け与えることだ」
「じゃあまず、えwfmprぐいrjg!」
 もう面倒くさいから説明はしない。庵子の呟いたいくつかの単語は摩訶不思議な力を持ち、十二キロ離れた友人の家で今まさに跳満に振り込もうとしていた僕を召還した。運がいいのか悪いのか、庵子の転送魔法の第一号に選ばれた僕は、ドギャンという聞き慣れない音と共に世界が崩れていくのをこの目で見て、次の瞬間には彼女に頭を踏まれていたのであった。よくわからないが字にするとそんな感じだ。というかこの時僕は当然のことながら事態の一パーセントもつかめていなかったので、全体重を預けられる痛みに悶絶し、その形相に怯え、わけもわからず悲鳴を上げてのたうち回った。その姿、貼り付けにされたカエルの如し。

「ああもう便利ね、これ。よくわかんないけど現実ってことでいいや」
「それがいい」
 イヤ駄目だ、夢であってくれ。その思いも今や儚く消えてゆく。僕は乱暴に蹴り転がされて、これ以上の暴力から逃れるために跳ね起きた。補足すると、ここからは僕の見たままを話すことになる。目の前には不適な笑みを浮かべる庵子と、その隣に変態がいた。
「その間抜けたツラと曲がった背中、本当に麻雀やってたみたいね。私との、約束を、フイにして、お友達と!」
「え、いやちょっと待った、それには訳が……ってなんで俺ここにいんの?」
「昨日のイブは仕事で駄目だったから、今日はって、言ったわね、確か、一昨日、あたりに」
 やばい、猫の目だ。一見つぶらだが動向が縦に細くなって攻撃性が見え隠れしている。これは夢でもなんでもなくまごう事なき庵子であり彼女の部屋だ。視界にちらちらはいる変態が気になるが、まさかこんな冗談みたいな男と浮気もないだろう、多分。万が一がないでもないけれどそれ以外のほうが遙かに確率は高い。気がする。
 で、なにが言いたいかというと、このとき僕の命は風前の灯火だったらしい、ということだ。ギリギリそのことを本能で感じ取っていた僕は、慌てて土下座をするとそれらしい言い訳をした。ちゃんとした理由は当然の如くあったのだけれど、それを正直に言えば一瞬でミンチになるのがわかっているので秘密にするしかない。
「もちろん、嘘も見抜けるのよね」
「もちろん」
 変態と何かを示し合わせた庵子は、僕にはよく聞き取れないいくつかの単語をつぶやき、にんまりとサディスティックな笑みを浮かべて、
「で、本当はなんなの?」
 と言いやがった。躊躇無く僕に嘘つきの烙印を与えた庵子に対し、変態は満足そう鼻を鳴らした。
「君もようやく素晴らしい力を飲み込めてきたようだ。よい兆候、よい兆候」
 また話が進まなくなってきたので、強引に時間を飛ばす。
 一時間ほど経って僕らが話し合ったことをまとめると、つまり今までの流れをまとめたような結果になった。変態サン・ジェルマンの紹介、庵子が魔法を使えるようになったこと。変態が僕の居場所を知っていたこと。庵子が魔法で僕を転送したこと。疑いのまなざしを向ける僕の前で変態を空中に浮かべて捻りながら、庵子は言う。
「これでも信じないなら、次はあんたをやってあげてもいいけど」
 変態の口からは地獄の底から響いてくるような悲鳴が漏れてくる。僕は素直に土下座すると、彼女に神の慈悲を請うた。

スポンサーサイト

コメント

コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

プロフィール

星野ボウフラ/初緑

Author:星野ボウフラ/初緑
いろんなモノを目指しすぎて何をすればいいのかわかりません。とりあえず今やらなきゃいけないことを全部ほっぽり出して寝ます。

(GC)GAMEHA.COM
このページはGAMEHA.comに登録されました!

小説
SNOW VILLAGE
カテゴリー
最近の記事
名言・格言集
リンク
このブログをリンクに追加する
最近のコメント
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。