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二十代魔法少女☆あんこ! 序

 超能力だとか魔法だとか奇跡だとか、この世には人知を越えた素晴らしい力がある。正確に言えば存在するかどうかは甚だ疑わしいものなのだが、おそらく十歳に満たない子供は確実に信じているだろうし、ヘタをすれば成人を迎えたいい大人ですら「あったらいいなぁ」とか「もしかしてあるんじゃね?」とか思っている。宗教はその典型的なものに違いないし、ハンドパワーなんかもそうだ。その存在が決定的に示されないくせに誰もが望んだり使えると吹聴したり信じたりする不思議な概念。そのいくつかのうちの一つが魔法。
 ところで飾東庵子が魔法を信じているかと言えば、ありえないと答えるのがおそらく正しい。前述したことを覆すようで申し訳ないが、とにかく彼女はオカルトや神秘の類からかなり遠い場所にいる。宗教からも遠い場所にいる。魔法なんぞなにをかいわんやだ。それは神様にお願いした初恋の成就が叶わなかったことに由来するかもしれないし、母親が心霊詐欺にあったことに由来するかもしれない。いくらでも理由とおぼしきものは出てくるが、彼女の心中は誰にもわからないのだからして、そしてこんなばかげた捜し物をする程枚数に余裕は無いのだからして、さっさと進めるのがよいと思う。
 こいつは僕が後から聞いた話だ。
 部屋に妙な、怪しすぎる闖入者が現れたとき、彼女は寝る前のけだるい時間をなにともなく過ごしていた。ベッドに座って、明日は休日だけどとくに用事も無いから何時に起きるのがいいかしらなど考えていたら、どこから入ってきたのかクラシカルなスーツにシルクハット、片眼鏡にちょびヒゲ、口に木製のパイプをくわえた鼻のやけに高い紳士が座っていた。いや不法侵入をしているのだから紳士ではあるまい。変態か犯罪者か、とにかくくせ者だ。だから庵子は窓ガラスにヒビが入りかねない程の金切り声で悲鳴を上げ、次に思いつく限りの汚い言葉で罵りながら男に殴る蹴るの正当防衛を加えた。部屋の埃が収まるころには、机の上にあったはずの桃色の卓上スタンドが無くなっていたが、それがどのようにして短い生涯を終えたのかについては詳しく語るまい。男は弁解をする間も与えられずにのびてしまい、酸欠に苦しみながら庵子はベッドのシーツで男を縛り上げた。この間約1分と11秒。魔法のような早業だ。
 その後警察に連絡しようとして携帯電話が止められていることに気づき、隣の部屋の住人が外出しているのを確認してため息をつきながら部屋に戻ったら、そいつは起きていた。鼻や唇やいろんな所から血が流れているが、表情そのものはスッキリしたもので、床にはいつくばっていたはずがシーツを奪われたベッドに寝ころんで彼女を見ていた……おかげでベッドは真っ赤で大きな染みによって使い物にならなくなっている。
「おりなさいよ変態!」
 庵子は男を変態と見なしたようだ。
 男は片眼鏡をクイと上げて、パイプを一息吸い、体を起こしながら懐からハンカチーフを取り出すと、ベッドの上に広げてこう言った。
「まあ座りなさい、お嬢さん」
「警察呼ぶわよ!」
「この部屋にそういった通信機器が無いのは承知している」
「ここに住んでるの私だけじゃないんだからね!」
「君は先ほどその隣人の不在をその目で見たはずだ。マァマァ、私は見かけが怪しいのを否定するつもりはないが君に危害を加えるつもりもない。落ち着きたまえよ。君の誤解を解くためにまずは自己紹介といこう」
 人の部屋に入り込んだのが非常識ならその上でのこの態度も十分非常識だ。だから常識の中で生きている庵子は言葉もなく呆然と突っ立っていたが、変態は反動もつけずに立ち上がると、シルクハットを脱いで深々とお辞儀をした。
「先より後へと旅する者、数多の死線と幾多の平和をその目にした者。多くの知を求め多くに授けてきた、人呼んで不死のサン・ジェルマン」
 この無駄に長ったらしい、装飾過多で電波な自己紹介を受けて彼女が何を思ったのかは想像するしかない……主にその後の行動を見て。
 案の定、庵子は反応に困っている様子だった。いや確かにその堀の深い顔立ちは西欧人であることを伺わせる。腰を曲げたまま庵子をチラ見した変態は満足げに頷く。調べてわかったことだが、このサン・ジェルマンという変態、人をからかって遊ぶのが趣味なようなのだ。だからこのシチュエーションはかなりおいしいものに違いない。が、紹介になっていない自己紹介をしたところで、信用が得られるはずもない。
「お嬢さんの名前は飾東庵子でよろしかったね、確か」
 庵子は逃げようとしているのか立ちはだかろうとしているのかよくわからない姿勢のまま、なんで名前を知っているの、というようなことを呟いた。
「そりゃ、お嬢さん。後でおいおい説明するけれども、私はなんでも知っている。君の隣人の名前も、彼がクリスマスイブのこの日に二十歳年上のマダムと五百メートル先のホテルでよろしくやっていることも、マダムの亭主がそれを今まさに見付けんとしていることもなにもかも知っている。もちろん、尾原仙介という君のボーイフレンドがこのクリスマスに友人と麻雀大会で盛り上がっていることも知っているよ」
「なんですって! あいつ、バイトがどうのこうの言ってたクセに……!」
 ちなみに尾原仙介とは僕のことだ。この時変態が言っていたことは驚くべきことに寸分違わず事実だったが、別に僕は庵子といたくないわけじゃなかった。そりゃそうだ。理由は後で明かされるかも知れない。問題は、庵子が何故かその部分だけは間違いなく真実だと受け取ってしまったことにある。
「さて、マァ、そんなことはどうでもよろしい。実は私は君に用事がある」
 でなきゃ部屋に上がり込む必要がない。
 変態は何かを期待する顔で彼女を見ていたが、特に反応がないので肩をすくめて続けた。
「11分前から君は魔法を使えるようになっている。私の構築した秘術によって」
 変態はまた何かを期待する顔で見ていたが、特に反応がないのでため息と共に続けた。
「君はこれから正義のヒロインとなって困っている人たちを救うんだ。子供達が夢見るスーパーウーマンになって空を飛び地を駆け火の中水の中、災害あればはせ参じ悪党あればねじ伏せて日本の平和を守る、それが君だ」
 変態はなおも何かを期待する顔で庵子を(略)特に反応がないのでいよいよ困ってしまったようだ。頭を掻いてシルクハットをかぶり直し、窓からパイプの火種を捨てて今度は懐から葉巻を取り出して口で噛み切ると火を付ける。
「11分前って、ずいぶん中途半端ね」
 彼女の混乱っぷりがよくわかるセリフだ。何を言いたいのかサッパリわからないあたりが。変態はようやくの反応にフンと鼻を鳴らすと、盛大に煙を吐いた。
「時計を見たまえ。11分……今、12分……前が丁度午後11時だった、それだけのこと。キリがよかったものでね。それよりももっとこう、前向きな質問などあればだね」
 変態の気持ちはよくわかる。その信憑性はともかくとして、魔法が使えると聞いたらまず頭に浮かぶのは時間がどうのとかいうことじゃないのは明らかだ。
 庵子は胡散臭そうに変態の体をジロジロみながら、それを呟く。
「なにかクスリでも飲ませたの? それともあんたがキメてるの?」
「嗚呼!」と変態は悲嘆に暮れた。けれど悲しいかな、今の日本ではそれが一般的な反応に違いない。「君はロマンがわからないようだ! いいからとっとと呪文を囁いてみたまえ、いいか、脳裏にひらめいた何かしらの意志を願いと共に言葉にするのだ。空でも飛んでみるといい! さあ飛べ、飛ぶんだ!」
 どこかから取り出したステッキを(本当にどこから取り出したのやら)庵子に向けて振る変態。相当にいらだっているようで、そこにはもはや礼儀の欠片も消えている。
 じゃあアンタ飛んでみなさいよ、と庵子が考えたのかはわからない。変態のセリフから察するにそうだと思えるが、なにせ庵子はあまりこの件について話したがらないからしょうがない。とにかくこの時、庵子は自分の常識を飛び越えた状況にちょっとキレ気味だったようで、売り言葉に買い言葉、ならばやってやろうじゃない、といった精神状態だったはずだ。だから、
「あqwせdrftgyふj!」
 変態に指を突きつけながら、およそ恥ずかしくて描写しにくい、マジカルとかラジカルとかプリティとかそういった少女漫画にありがちなメルヘン単語がふんだんに盛り込まれた意味のよくわからない叫び声を上げた。これが本当に頭に浮かんだとするならば、彼女に対する認識を改めなければならない。思ったより夢見がちだったのかも。「それだ!」と歓喜の声を上げた変態の周りの空気が竜巻のようにうねり、そのまま彼は不可視の力でもって吹っ飛ばされ、窓ガラスを突き抜けて夜空の星になった。その間11秒程度。別に11という言葉にこだわっているわけではないので念のため。僕の意志の届かない何かがそう決めているらしい。
 数秒の沈黙の後、階下から笑い声が聞こえてきた。

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