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有限無限パラドクス

1.「現在」から345418日前
 絶景だ。僕は壁一面のガラス窓から紅葉を眺めていた。どこともしれぬ(日本かもわからぬ)山奥の、そこに建てられた研究所のようなホテルのような監獄のような施設の一室。そこから見えるのは、人気の全くない大自然だ。ガラスから見える端から端まで全て山。そして森、流れ出している小川。こんな不相応な施設がなければ、世界の絶景百選に登録されてもおかしくはないだろう。そんなのがあるかどうかは知らないが。今日起きてから、僕はこの自然をスケッチブックに何枚も写しとった。だって他にやることなど無いのだから。ああ、こんな綺麗な場所、観光名所にしてより多くの人に見てもらうべきなんだ。いや、今は(昨日の話を信じるならば)1065年なんだから、僕たちがやってきた2012年には、実際になっているのかも知れない。ここがどこかわかれば、そんなこと考えなくてもいいのに。
 僕はスケッチブックを放り出した。いい加減4時間も描いてれば、そりゃあなんだって飽きるものさ。しかも同じ風景だっていうんだ。そもそも僕らには、絵を描いたりする余裕なんかあるべきではないのだ。叔父の御剣竜太郎は未だに本にかじりついている。昨日の夜に見た姿勢と寸分とも違わないから、おそらく夜通し(ついでに、日が昇ってから今まで)ずっとずっと本を読んでいるのだろう。あの薄っぺらい本に全ての文書が詰まっているなんて俄かには信じがたいが、なにせ僕らを拉致した奴らはタイムマシンを開発するような連中だそうなので、そしてまた、本の虫、いや寄生虫だと言っても過言ではない竜兄がこんなに時間をかけて読み終わらない一冊の本などこの世に存在しないはずなので、おそらく彼らの技術力は信じるしか無いのだろうと思う。
 意味不明な描写が続いたが、これは賢明なる読者諸兄を少しでも混乱させられればという、僕のほんのいたずら心なので許してくれとは言わない。ただまあ、この続きの物語を読んでもらうにあたり、最低限必要な知識は披露しなければアンフェアとなるので、この事件の発端となった尾立本・クリス・坑丸と僕らの会話を紹介しようと思う。また、情報を正確に諸兄らに与えるために、これから後の章では、この無意味に冗長で華美装飾な文をできるだけ短くするよう勤めるとする。
 何故かって、この事件はそもそもの構造が果てしなく複雑で、意味不明で、怪奇で、そう、どこまでもSFじみているからだ。一言で言えば、わかりにくい。だから簡潔を期すために、事件とは関係ない、ただ字数稼ぎのための長文はここで姿を消す。
 だが、一つだけ言っておく。これからはあくまでわかりやすく、平易な表現を用いるが、それですらよくわからない、という人がいても、僕はそのことに一切関知しない。
 それでは前口上終わり。御剣竜太郎の事件プロフィールをご覧いただいた後、本編に入る。ちなみに、このページには事件の本質に迫る手がかりは欠片も存在しないので、読み飛ばしていただいても構わなかったのだが、もう遅いか。
 僕らが軟禁されて、今日が2日目だ。



2.御剣竜太郎、事件関与年表(今回の事件に関する部分のみ)
 1999年(16歳):新山桜と共に大槻鯨司他三人の行方不明事件を解決。
 2002年(19歳):新山桜と共に、御剣御神体破壊事件を解決。
 2005年(21歳):御剣町での連続猟奇殺人事件を解決。
 2012年(29歳):大槻鯨司と共に、いくつかの猟奇殺人事件を解決。
 2016年(33歳):同じく、いくつかの猟奇殺人事件を解決。大槻鯨司が行方不明に。
 2019年(36歳):稲葉皐月と共に、いくつかの猟奇殺人事件を解決。
 2031年(58歳):最後の事件を解決。その後、隠居暮らし。



3.拉致当日
「突然のことですまないが、君らはこれからしばらく、この施設で生活してもらう」
 そのとき、僕らはまさに昼飯のパスタを食べようとしていたところだった。目の前のソファに座った、眼鏡でハゲな中年男は無表情にそう言った。
 竜兄は鳩が豆鉄砲を喰らったような目で男を見てから、僕に向かって、
「今日、面談の予約あったっけ?」
「いや、ないけど」
 今まさにパスタを口に入れんとしていた竜兄は、その手からフォークが消えていることに気づいて、所在なさげに頭を掻いた。訳がわからない。どうやらここは御剣探偵事務所ではないようで、そもそもさっぱり見覚えがない。今日は特になんの仕事も無いので、サッキと竜兄と三人で昼食を食べようということになったはずだが、はて。
「座ってくれたまえ」
 男がそう言ったことで、僕たちは自分が床に盛大に尻餅をついたのを思い出した。椅子がいきなり消えたからだった。重力というものは一種の凶器だ。その証拠にケツが割れるように痛い。とにもかくにも僕と竜兄は、(ハゲの)男と向かい合うようにソファに座った。部屋はソファとテーブル以外には窓しかなくて、いや、すまない、ほとんど壁と同化した扉があった、その近くに二人のボディーガードのような大男。それだけ。
 何が起きたかを考えるのはいつも竜兄の役目だから、僕はあたりを観察することに努めた。五分ほどたっただろうか。それまで押し黙っていた竜兄が、おもむろに口を開いた。
「まず、なにが俺たちに起こったかについては置いておいて」
 ヤロウ、さぼりやがったな。
「ここはどこだ?」
「1065年10月3日」
「いや、いつか、じゃなくて」
 場所だ、と訂正しようとした(のだろう)竜兄は、ふと言葉を詰まらせる。
「いつだって?」
「1065年」
「2012年だろ?」
「いや、1065年だ」
 竜兄がこっちを向いた。いや、僕に意見を求められても困る。視線でそう返すと、竜兄は肩をすくめて、なんの冗談だ、と言った。
「冗談ではない。詳しくは後で説明しよう。ここがどこかについては、まあ書面通りにホテルと答えておこうか」
「歯切れが悪いな。正直に言ってくれよ」
「監獄」
「ホテル?」
「監獄だ。おそらく、それが一番近い」
「ふん? いや、まぁいい。今は1065年で、ここはホテル、もしくは監獄」
 このとき竜兄が、この妙ちくりんな設定をただの狂言だと考えていたのかどうか定かではない。問題は、彼が一番大事な部分を「まぁいい」ですませたことだった。
「ちょっと、竜兄。追求しないでどうするよ」
「なにをだ」
「いつ、どこか、だよ」
「1065年で、ホテル。いいじゃないか。どうせ肝心な部分は最初には喋りゃしないんだ、こういう場合」
 それには同意できるが、しかし。
「いいか鯨司。まずは事態把握だよ。俺に任せっきりじゃいつまで経っても独立はできないぞ。ここは1065年で、ホテル。パスタを食べようとしていた俺たちをどうやってここに連れてきたかについて相手は今のところ喋る気ナシ。これが事実だ」
「誤解があるな。我々は全て説明するつもりだ。ただし順序を追わなければとうてい理解できないことは分かり切っているからして、まず君たちが落ち着くのを待っているだけだ」
「そりゃどうも。できれば、そろそろ全部説明してほしいものだがね。ええと、あんた、名前は?」
「尾立本・クリストリ・坑丸」
「ひじもと・クリト……いや失敬、クリストリ・あなまる。名前?」
「そうだ」
「なんて呼べばいい」
「好きにしろ」
「じゃあ、尾立本さん。ご存じの通りだと思うが、訪ねたいことは山ほどある。しかしてあんたはこれから説明してくれるのだそうから、そういったのは後回しにしたほうが賢明に違いないんだろうが、それをおして、一つだけはっきりさせてもらおう」
「なんだ」
 竜兄大げさにため息をついて、
「それ、本名?」
 僕もため息をついた。
「もちろんだ。私は科学者だから、被験者には本名を名乗らなくてはいかん」
 被験者。
「そうか、同情するよ」
「いらんよ。むしろ私がしたいくらいだ」
「それじゃ、説明をお願いしてもいいだろうか」
「ああ、よろしいか。まず君らには、ここで長くて一ヶ月ほど生活してもらう旨を伝えなければならない」
「理由は?」
「君らが《ホームズとワトソン》であるから」

4.三食前
「《ホームズとワトソン》」
 竜兄が反芻した。
「そう。これは便宜上の呼び名で、広義に、探偵とその助手と考えてもらって構わない。厳密には、事件を解決する人間と、それを補佐する人間のことだ」
 竜兄は、首をかしげることで先を促した。
「君らは、いくつの殺人事件を解決したかい」
「さあ、わからんね」
「我々の記録によれば、大槻君が君のもとを離れる四年間の間に、だいたい二十前後の人死にに関わる事件を解決している」
 竜兄は肩をすくめて、
「あいにくと、そんな仕事は一つも引き受けちゃいないがね」
「だからこれからだよ、御剣探偵」
 男はどこからか取り出した紙の束をテーブルの上に置いた。
「興味深いデータがある……紙なんてのは我々の時代じゃほとんど存在しなくてね。使い慣れていないから多少汚れているが気にしないでくれ。なに、君らが岩に文字を書くことが難しいのと同じだと考えてくれればいい。いや、指を切ったときはさすがに驚いたがね。なにせ血を流すなんてのは生まれて初めてだったから。そうさ、我々の時代には流血するようなことは本当にまれだ。安全な時代なんだよ。実際に血を見るのも初めてだった……すまない、話がそれたね。《ホームズとワトソン》、君らが関わった事件に関する全ての資料だ」
 僕らはそれを手にとって、しばらく呼んでいた。何県(一件だけ、海外)のどこの町で事件が起き、何人が死に、僕らがどのような捜査をし、誰が犯人なのかが詳細に書かれてある。そのバリエーションは様々だが、一つだけ共通していることがあった。まったく身に覚えがない。事件の起きた日付を見ると、一番古いものでどうやら明日起きるようだ。明日とはつまり、2012年の10月28日である。
「日付についても後で説明する。注目すべきはいったいどこだかわかるかね」
「あんたのさっきの質問から察するにだな……なんだろう、鯨司」
「三件をのぞいて、死人が出てるってことだろ」
「その通り」
 男は手を一回だけ叩き、頷いた。
「君らが関わった事件のうち80パーセント以上が殺人事件だ。そのうえ、殺人事件の実に九割は、君らが事前に知り得ないものだった。いいかね、君らは時にスキーに行き、時にファミレスで食事を取り、そこで偶然にも殺人事件に遭遇している。見たまえ、これなどは依頼段階では不倫調査になっている」
「つまり」
「君らは松本天峰という探偵とも知り合いだね」
「それが何か」
「君の師匠だ、御剣探偵。そして大槻君、君の《前の》師匠でもある」
「この際、あんたがやけに情熱的に俺たちのことを調べていることについては置いておこう」
 竜兄が遮るように言う。
「ただ、松本さんが俺たちの件にどんな風に関わっているのかは、先に行っておいて欲しいね」
「うむ。予想はつくだろうが、一応資料は見るかね」
「いらない。松本さんだって、未来の事件までのぞき見されるのはイヤな気分だろう。それに、どうせその資料とやらもこっちと大してかわりゃしないんだろ」
「その通りだ。彼に関してもほぼ同じ。九割以上の事件で、偶然にも殺人に遭遇している。その他の探偵役もそうだ。ほぼ全て。いいかね、古くはシャーロック・ホームズもエルキュール・ポアロも、日本では島田潔も金田一耕助も、全て、全て、全て。ほぼ全て! どういうことだかわかるかね」
「さぁ、俺にはちょいとわからないね」
「ふむ。残念だ」
 そう言いながら、男はさして表情に変化を見せなかった。竜兄がわかっていて知らぬフリをしているのに、やっぱり気づいているんだろうな。僕ですらわかったくらいだ。
「われわれの調査結果はこうだ。殺人事件は、探偵がいるからおこる。いや、探偵こそが殺人事件の元凶である」
「何を言うかと思えば」
 僕はいい加減あきれ果てた。
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