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またまたたたき台

 さて。
 古原小市が、ある種暴挙とも言える行動に出たのは、彼一人の力ではない。
 だいたいは彼の力なのだが、その始めの始め、尾崎雪子を呼び出そうと決意したのは、彼の友人の一押しによる。
 その友人が、今、古原小市が情けない顔で突っ立ってる様を覗いている松行京である。全部見られていた小市。もしこの覗きが露呈するようなことがあれば、事態の引き金を引いたものの責任ゆえの行動であると、どうか寛大な心で許してやるようにと願う。
 京は小学校の頃からの幼なじみであった。このあたりは地方都市なので、小学校から高校まで一緒、というのは割合としては多くない。特に生徒が八百人を超すほどの大規模な学校であるから、同じクラスに所属する確率となればゼロから数えた方が早い。京はどちらかと言えば社交的な方で、ややもすれば引っ込み思案な小市の手をつかんでクラスに馴染ませたりと面倒見もよく、小市にとってはまことに幸運であったというほかない。
 高校に入学して以来なにくれと世話を焼いてきた京だが、もともとの彼の気性とはいえ、そこまでするのは少し異常である。二人があまりに仲がよいので一時ホモ疑惑もたったが、それをまた彼は小市のためにいちいち訂正して回ったのであった。そのせいである種の連中はその疑惑をますます強くしたが、全体的には沈静した。
 もちろん裏があって、今の小市を作り上げたのは、その三割ほど彼に原因がある。前述したとおり小市の対女性恐怖症は生来のものだが、それをさらに強化してしまったあの校舎裏事件は、彼の提案によるものなのである。当時中学二年生だった京は、幼なじみがクラスメイトに惚れているのを知るや、悪友と結託して二人のための舞台作りに奔走した。その結果があのような有様で、小市の奥手っぷりをナめていた京が完全に悪い。それに、多少は野次馬の悪ふざけであったことは彼も後に反省している。本気で殴られかけたし。
 つまり、松行京は小市に対してひけめがある。あのまま放置していたからといって、中学二年生の淡い恋が実ったとも思えないが(なにせ小市であるから)自分が自ら手を下してしまったというのはあまりに酷いオチだ。
 そういうわけで、彼は次の機会にはさりげなく協力してやろうと心に決めたのであった。やり過ぎはよくない、何事も。しかしその前に、小市の人付き合いの苦手さはいかんともしがたい。そのため高校入学と同時、同じクラスになったのを確認した後、ここぞとばかりに小市改造計画に着手したのであった。彼の社交性のなさをフォローし、クラスになじめるようにあらゆる手を用いたのである。その思惑は、今度はハマったといっていい。彼は二年に上がる頃には見事にクラスの一員になっていた。そうでなければ、密かにクラスの隅で固まっているオタク連中に飲み込まれていたかもしれない。そうすると高校での彼女は絶望的だったはずだ。
 二年になって、彼はあることに気がついた。小市が女子に惚れていた。これぞ汚名返上のチャンスだ。京は燃え上がったが、なにしろ彼には前科があるし、しかも相手はマドンナの雪子であった。それが一番つらい点だ。クラスに馴染んだとはいえ小市はやはり地味な方で、女が苦手なのは治っていない。ある種変態的とまで言える京の脳内の『古原観察日記』には、古原小市と尾崎雪子が会話をしたのは数えるほどしかない旨が記されている。隣の席であるのに、だ。
 そこに小市の転校情報である。
 自身のショックも大きかったが、小市への申し訳なさを解消する前にいなくなられるのはごめんだった。なんとしてもひっつける。遠距離だっていいではないか。彼も一組知っているし。
 その第一弾が、これだった。
 めでたく?再度同じクラスになり、五月に入り、小市が学際準備委員を押しつけられたのを知るや彼は行動を開始した。さりげに、である。
 具体的にはなにをしたものやらと困っている小市に、
「そういや尾崎さん、去年準備委員やってたよな」
 と言ってやった。
 そのときの小市の顔は想像に難くないが、ここまで大胆な行動に移るとは彼も予想していなかった。「近づいて話すチャンスがある」と小市が意識すればよかったのだ。そうすれば、小市なりにゆっくり、学際が近づくにつれて、最初は京を仲介して、だんだん二人で、となっていくのが彼のプランだった。
 いきなり崩れた。
 小市は珍しく、京になんの相談もせずに動いた。ホームルームが終わった後、何事か悲壮な決意を秘めた顔で立ち上がった小市が尾崎雪子に声をかけるのを見て、彼は酷くショックを受けたものだった。あまりに衝撃的なことだったので、思わずガールフレンドの扇子木頼音の誘いを蹴ってしまったほどだ。
 教室を出るふりをして三十分。この高校、部活動が盛んなので、全体連と呼ばれる競技合同全国大会が行われる今の時期はあっという間に人がいなくなる。ものの十分で教室は小市と雪子の二人だけになり、ドアの隙間から覗いている京を邪魔するものもいなくなった。
 雪子が立ち上がった時点で、彼はドアから離れて階段を上った。これから部活にいく雪子は階段を下りるはずだし、小市は三階に用があるとも思えない。案の定雪子は、一階へと下りていく。身を潜めて京は彼女を観察する。今までは適当に見ていたが、改めて意識すると、なるほど、かなり、いや絶世の美人だ。少なくとも彼はそう思う。さんざんわかっていたことだったが、少し小市には不釣り合いな気がしなくもない。
(ばかやろう! そういうのじゃないんだって!)
 頭をぶんぶん振って、彼は友人に謝った。釣り合いなど、当人達に取ってみれば全く関係ないことではないか。
 しばらく時間をもてあましたが、小市が出てくる様子はなかった。もしかしなくとも意気消沈しているのだろうが、おそるおそるドアの影に戻った京は、そこで全く打ちのめされてしまった。
 ――見たことのない顔だった。
「ちょっとコクろうと思ったんだけど恥ずかしくて言えなかったぜ、HEHEHE」と言うような、苦笑いを予想していた。
 やはり京には罪がある。
 小市の純情っぷりをナめていた。
 彼がどれだけ勇気を振り絞ったのか、ここに至って、なおわかっていなかったのだ。
 だから、彼は今度こそ心に決めたのだ。
 小市は世界の終わりのような顔をしているが、まだ告白して振られたわけではない。
 だから、チャンスは、ある。
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