FC2ブログ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

たたき台

 僕のポケットには、一枚のハンカチが入っている。
 クリーム色の柔らかい素材で、右下の隅に花の刺繍が入った可愛らしい代物で、もちろん、僕のものじゃない。
 女子高生のものだ。
 今日、初めて会った女子高生の。
 ……いやいやいや、実を言えば会ってすらいない。すれ違っただけだ。
 すれ違って、その匂いというか雰囲気というか、僕の気を引く魔力的なものを感じて振り返ったとき、彼女が落としていたハンカチだ。
 なぜ彼女がハンカチを落としたのかはわからない。なぜ落としたことに気づかなかったのかもわからない。ものをなくすってのは、得てしてそういうものだと思う。
 ちょっと捻くれた言い回しをすると、運命みたいなもんだ。知らないうちになくなっているものは、なくなるのが決まっていたんだ。
 東京のとある女子高生がハンカチを落とすのが運命なら。
 そう。
 それを僕が拾ったのも運命であっていいはずだ。

 運命に従って、僕は彼女の後を追った。
 JR埼京線。ここから導き出される「居住は埼玉県」という結論。僕は多摩市に住んでいるから反対方向といって差し支えない。
 帰宅ラッシュにもみくちゃにされながら彼女を観察する。目につくのは制服。あの輝光女子のものだ。中高一貫のお嬢様私立で、清廉な校風に高い進学率、そして美人多しの「天使の花園」である。僕の胸は否応なく高まる。このハンカチの持ち主が、僕の運命の相手が、輝光女子の高等部で、なおかつ類い希なる麗しさとくれば平静な方がどうかしている。
 彼女はこのラッシュの中、驚くべきことに座席を確保していた。いや埼京線が初めての僕でも一見してわかるテクニック。多分に運が絡まることは前提だけれど、たとえば渋谷から乗れば、新宿、池袋で大規模な入れ替えがある。車両の中身が半分はかわると言ってもいい。その入れ替えの隙をつけば、座ることはあまり難しくない。

 制服から目をそらせば、まずきれいにそろったボブの茶髪を見ることになる。柔らかな髪の毛が包んだ顔は人形のようで、長いまつげが瞬きに会わせてぱちぱちと動く。すらりとした輪郭は首をたどって無理なく制服の中に消えていき、外からはかろうじてやせ気味の体型がわかるのみだ。少し短めのスカートからはやっぱり細くて白い足が出ていて、ニーソックスを纏って小ぎれいな黒い靴に刺さっている。全身がわかりやすい美しさだ。
 きっとナイスバディとは言えないな、だがそれがいい、と一人でうなずく。清楚であれば貧乳であるのが世の真理というものである……一度松行とケンカになった。あのおっぱい星人め、何かにつけ巨乳とほざく。この世にはTPOってのが頑として存在するというのに!
 閑話休題。さて、彼女は本を読んでいた。遠目だし揺れてるしそもそも小さいしでタイトルはわからないが、あんまり厚くない。開いてるページは字が多いようで黒い。それとも講談社文庫だから字がでかいのだろうか? 判別がつかないのでこれ以上の考察は無意味だが、僕も本は好きだ。電車で読むくらいには好きだ。最近はぷりけつ(「ぷりぷりしてるけど決して怒ってるんじゃないんだからね!」著:海島ユキト)とかどかん(「どかんなう-円筒形少女-」著:BUKIBEKKI)とか。まさか彼女がラノベなんか読んでないだろうけど、どうであろうとも共通点には違いないのである。
 赤羽を過ぎて、電車はしばらく止まらないようだ。彼女を見失う心配もないので僕はケータイを取り出した。なにって、もちろんつぶやきコミュニティ『Links』だ。最近はやってる、あのゆるーいコミュニケーションの。

『Backyoum 最強線なう。人がゴミのようw』

 瞬く間に返事が返ってくる。

『Origoto @Backyoum なぜ乗ってるしw生息地反対だろwww』
『DACHiYAN_2nd Backyoumが旅に出た件』
『Rekisan 突発さいたまオフ開催予定ノシ RT@Backyoum 最強線なう。人がゴミのようw』

 思わず口元がゆるんでしまって、あわてて手で隠した。

『Backyoum オフの暇ない。ストーキング中w』
『Rekisan 通報シマスタ RT@Backyoum オフの暇ない。ストーキング中w』
『DACHiYAN_2nd RT@Backyoum オフの暇ない。ストーキング中w』
『Palpotoooo RT@Backyoum オフの暇ない。ストーキング中w』
『MatsuyukiKosuda RT@Backyoum オフの暇ない。ストーキング中w』
『BacKyoum おいやめろ。早くも俺の人生は終了ですね』

 このくらいの冗談は日常茶飯事だ。まあ今回はガチなんだけど、誰も本気にしやしない。フォロワーが全力でRTしてるけど放っておく。なにしろ、彼女が席を立った。
 人の雪崩れに乗って電車を出ると、武蔵浦和駅だった。初めて降りた駅だ。見失ったらことだと、人混みでも目立つ制服を追って階段を下りる。武蔵野線と乗り合わせがあるようで田舎のくせに人がやけに多い。彼女はケータイを覗きながら歩いているが、不思議なことに誰ともぶつからない。
 彼女を追って、駅下のコーヒーショップに入った。彼女から少し離れた席に座る。ちょうど暗くなってきたこともあって、ガラスに彼女が反射して見える位置。
 彼女は紅茶を置いたまま、ずっとケータイを弄っている。メールだろう。とりあえず注視し続ける必要もなくなったので、僕もケータイを取り出した。

『DACHiYAN_2nd ガンダムカフェなう』
『MatsuyukiKosuda Backyoumはそろそろ大宮に到着するころ。待ち伏せしてやろうずw』
『Motaripo 【急募】使用済みパンツ』
『Palpotoooo 【救護】RT@Motaripo 【急募】使用済みパンツ』

 さっきの冗談に信憑性を与えるため、以下をつぶやく。

『Backyoum もう電車おりてる。俺の嫁は補足中。お前らカムフラよろしこw』

『Rekisan Backyoumがもう引き返せない件』
『MatsuyukiKosuda @Backyoumまて早まるな俺もいく』
『Qchan @Backyoum え? マジなの?』
スポンサーサイト

コメント

コメントを投稿する

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

プロフィール

星野ボウフラ/初緑

Author:星野ボウフラ/初緑
いろんなモノを目指しすぎて何をすればいいのかわかりません。とりあえず今やらなきゃいけないことを全部ほっぽり出して寝ます。

(GC)GAMEHA.COM
このページはGAMEHA.comに登録されました!

小説
SNOW VILLAGE
カテゴリー
最近の記事
名言・格言集
リンク
このブログをリンクに追加する
最近のコメント
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。